べスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る 最終回 (最新にして伝説のアルバムとなったREFLECTION)

今回でミスチルの歴史の振り返りはラストとなるが、ここ3年ほどのミスチルの活動はとにかく活発。2014年に入り、レコーディングも活発化し、秋にはファンクラブ限定で未発表の新曲のお披露目ライブを開催し、その模様を映像化したドキュメンタリー映画「REFLECTION」を上映、2015年春からは未発表曲発表のためのアリーナツアー。そして2015年6月4日にアルバムを発売し、そのままドームツアー「未完」へと移っていき、REFLECTIONプロジェクトが終了したと思いきや、その直後に対バンツアーを発表。アジカンくるりエレカシ、ヒートウェーブ、小谷美沙子などと対バンをして音楽性に新しい風を吹き込ませた。2016年から現在にかけてはホールツアーを二本開催し、夏からはドーム・スタジアムツアー。メンバーの体調が心配になるほどのハードスケジュールである。これだけ成功したバンドがその場に留まろうとせずこれだけの活動をしている背中を見て励まされているファンも多いのではないかと思う。

 

進化し続けているミスチルの最新作REFLECTIONは衝撃的なものであった。まずブランディングの観点からも、発表前に新曲お披露目ライブを開催したり、その模様を映画化し、ファンクラブの会報などでは楽曲の制作レポートを出したりと、ファンの期待値が絶頂となったところでアルバムを発売するという手法が素晴らしかった。またパッケージの種類も2種類あり、NAKEDとDRIPという23曲全部入り+ハイレゾ音源データ+DVD+デモテープ視聴権のデラックス・エディションとDRIPという12曲入りのノーマルサイズのアルバムが同時リリースされた。プロモーションとしても新しい試みを果たしたアルバムREFLCETIONのアルバム曲を幾つか紹介していきたいと思う。

アルバム『REFLECTION』

Fantasy

スピッツの『ロビンソン』をイメージして作ったそう。サビの最後で着地しない感じは確かにロビンソンっぽい。イントロは小田和正の『ラブストーリーは突然に』のようにインパクトがあり、ライブで湧くようなものにしたかったそう。仮タイトルは「王道」というだけあって、王道でかっこいい曲でありながら、サビは皮肉に満ちている。

FIGHT CLUB

映画「ファイトクラブ」のブラピに憧れた男の歌。疾走感と勢いがめちゃくちゃあるのにどこか物憂げな雰囲気が漂う。勢いに任せているけど本当は不安で仕方がない思春期の気持ちを表現している。激しい曲なのにCメロからのセッションが入ってくるのも面白い。闘争心を向上させたい人におすすめの一曲。

斜陽

当初アルバムの方向性として「自分たちが年老いていき、世代交代して新しい世代にうまくバトンタッチ出来たらいいな」みたいな方向だったと何処かで話していた気がする(どこだったかは忘れたw)。「斜陽」や「FIGHT CLUB」、終盤に収録されている「進化論」などからもこのアルバムの裏テーマのようなものを受け取ることができる。その反動として「未完」という攻撃力100の守備力0みたいなロックみたいな曲が収録されていたりもする。

 

音楽としては大滝詠一の「さらばシベリア鉄道」とビートルズの「エリナ・リグビー」をあわせたイメージのものを創りたかったそう。独特なリズムや民謡っぽい感じがオリジナリティーを醸し出している。ミスチルの曲の中でも極めて芸術性が高い曲だと思う。『Q』や『 DISCOVERY』時代のエゴ丸出しの桜井に『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』 の頃の共通項の大きい歌詞が併せ持たれた完成度の高い曲になっているのではないだろうか。

蜘蛛の糸

とても大人で官能的な雰囲気の曲。3曲目の「斜陽」に続き文学作品から名前を取っているのがこの曲。イメージとしてはボズ・スキャッグスの「We’re All Alone」の世界観らしい。確かにしっとりしたピアノと美しいメロディーの世界観はとても近い。2015年のスタジアム・ドーム、アリーナで披露されたが、巨大スクリーンに美しい映像を映して演奏されていたのがとても印象的。

I Can Make it

ギターを3本以上重ねているというこの曲。桜井の作家としての苦悩のようなものが描かれている。サビの感じやベースラインがすごく洋楽っぽい。

ROLLIN’ ROLLING~一見は百聞に如かず

こういう曲をミスチルファンは長らく待っていたのではないかという曲。感情を共有する音楽ではなく桜井のエゴ全開の曲。後に登場する「REM」や「WALTZ」のような重たいロックではなく、ブラスも入れたキレのいいスピード感のあるロックというイメージ。

運命

初期ともまた少し違うキラキラした遊び心全開のかわいらしい曲。主人公の童貞感がとても良く、世界観的には「HANABI」のカップリング曲の「タダダキアッテ」に近いかもしれない。とびきり明るいんだけど、好きな女の子の涙をいつでもふけるようにハンカチを持ち歩いたり、妄想に身を委ねて自分を慰めたりとストーカー臭さえもする危ないけど可愛い曲。お蔵入り候補だったらしいけど、入れてくれてよかった笑

忘れ得ぬ人

とことん暗くてナルシズムのあふれる歌。EXILEのATSUSHIやK-POPスターが歌ってそう。

You make me happy

なんだかんだこういう曲は時間がたっても飽きないんだよなという曲笑。ゴージャスでハッピーな曲。ジャジーで聞いててとても気持ちがいい。

Jewrly

おしゃれな曲。スナックのママが歌っていそうな感じはSENSE収録の「ロザリータ」に近いかも。こちらはピアノよアコギがとてもおしゃれ。桜井曰く汚れっぽい田原のギターがいい味を出している。

REM

ダークなミスチルを極めた曲。ミスチルのロック系の曲を聞いていると桜井はMUSEのようなパワー系ゴリゴリロックが好きなのだろうなぁと感じる。そんなパワー系の桜井を存分に楽しめるのがこの曲。サマーソニック2013で披露されたのがとても懐かしい。この曲が出来たのを皮切りに今回のアルバムが振り切れる方向に向かったそう。そういう意味ではREFLECTIONの中でも鍵となる一曲。

WALTZ

桜井本人はこの曲において自身のアーティストエゴが最も現れたとも語っている。とてもダークだがREMのように勢いで押し切っていくというよりは曲の展開が変化しながら進んでいく。ミスチルの歴史の中でもこんなに実験的なロックはあったかというレベルでぶっ飛んだ芸術的なロック。イントロの爆発感からの落ち着いたAメロがとてもかっこいい。「誰も欲しくない 必要としないなら 耳を塞げ」という攻めのミスチルが見られるのはファンにとってはたまらなく嬉しい。この曲の歌詞は就活生の厳しい現実を歌った曲なのではという説が巷では流れている笑

遠くへと

ユーミンの「中央フリーウェイ」を意識したそう。爽やかな晴れた日のドライブで聞きたい歌。恐らく物語の主人公はバイクに乗っているのだが、車やバイク問わず、ロードムービーに並んでミスチルの中でも有数のドライブソングになっていると思う。

I wanna be there

リラックスいた雰囲気の歌。一人旅をしている時にこんな曲を聴くと泣いてしまう笑

ヒッチハイカーのようなワイルドな雰囲気なのだがどこか物憂げな雰囲気を漂わせているのがとてもいい。明るさの中に哀愁を漂わせているという意味では「FIGHT CLUB」に近い(音楽的には全然違うと思うが)。

未完

Mr.Childrenの骨格の部分だけが剥き出しになっている曲。肉付けが全くされていない。ゴージャス感がまったくなく、ボロボロになった男が自由を求め叫んでいるような感じだろうか。REFLECTION前後のミスチルはとにかく四人の物語を強く強調しているように思う。コバタケと制作過程の中決別し、バンドメンバー四人が主体性を持ちMr.Childrenを作っていくというのが強く感じられた。ライブの中でもジェンがコール・アンド・レスポンスをしたり、田原さんとナカケーがMCで話したり。これまで桜井和寿一人のバンドという側面が強かったミスチルだが、そんな彼を支え続けてきたメンバーがいたということを再確認させられ、バンドっていいなと思わせてくれるのがこのアルバム。

 

「未来へ続く扉 相変わらず僕はノックし続ける」という歌詞は終わりなき旅の「閉ざされたドア」のその先にある物語を思わせる。そしてこれだけの年数を重ねてもまだチャレンジ精神を失っていないんだというバンド四人による宣言のような曲だ。

 

 まとめ

ミスチルがこれまで培ってきて持ち合わせる球種を全て投げたと櫻井は語っている。マスという概念が崩壊しかけている中で、これまでのミスチルの最も得意としていたお茶の間レベルに投げかける曲だけでは生き残れないという危機感がメンバーにはあったのだそう。そんな環境なだけあって、これまでミスチルファンにしか受け入れられなかったであろう曲も全て盛り込んだアルバムを出したということだ。REFLECTIONはいわばこれまでのミスチルの振り返りという意味合いと新しいミスチルという意味合いの二つを持っていたアルバムだったように思う。『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』の頃は客に与えることに専念し続けたミスチル。その反動としてファンとしては彼らのエゴの部分をもっとみたいと思うようになった。そんな中で彼らはバンド四人の物語を発売前のライブやドキュメンタリー映画、発売後のライブで作り上げた。

そして今もMr.Childrenは新たなチャレンジをしている。マスの消失という文脈からか、最近のミスチルからはコアなファンを大事にする姿勢が強く見られる。小規模なホールツアーの開催やマニアックなセットリストの構成などコア層に向けた活動が増えているように感じる。そしてREFLECTIONでは四人で作り上げていくサウンドを強調していた一方で最近のホールツアーではサポートメンバーを多く加え、よりゴージャスで彩りのある音楽を追求している。

ミスチル現象を終え、盤石な地位を気づき、富も名声も全て手にしてもなおバンドが進化し続ける。そんな普通じゃないことをやり続けているのがMr.Childrenなのだと思う。これからも彼らは新しいチャレンジで僕らをワクワクさせてくれるに違いない。

 

4回にも渡る長編の特集で書きたいだけ書かせていただきました。お付き合いいただき誠にありがとうございます!

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