べスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る③ (HOME~ブラッドオレンジまで)

これまで二回にわたってMr.childrenの歴史を振り返ってきた。

dorgan.hatenablog.jp

 

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今回はアルバム『HOME』以降のミスチルを見ていきたい。私は『HOME』以降のミスチルは音楽に対してのスタンスが大きく変わったように感じる。これまでミスチルの音楽は彼ら自信を救うために奏でられてきたように感じる。しかし『HOME』以降のミスチル(というより桜井和寿)は誰かのために音楽を奏でるようになったように思う。このころ、彼自身の活動にもそんなスタンスの変化が表れている。2004年に環境問題や社会問題に対しての資金を集めるためのバンドであるBANK BANDを結成。その後2005年から2012年までの間毎年夏にap bank fesというイベントを開催。桜井自身この活動を音楽への恩返しと述べている。これまで音楽によって自分自身を救済し続けてきた彼の音楽への取り組み方が大きく変わったのはこの時だろう。

 

2006年のap bankで深海期には考えられないような当時の新曲「彩り」を披露した。その際のMCからも当時の彼の音楽に対する姿勢が垣間見える。

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そんな「彩り」も収録されたアルバム『HOME』のアルバム曲からまずは何曲か紹介していく。

アルバム『HOME』

Wake me up!

夜明けを祝福するかのような明るいメロディー。「表彰台に上った記憶なんかない それで何不自由なく過ごしてきた」や「革命は起きない ありきたりの日々を 祈るように生きよう」というフレーズがこのアルバムの世界観を作り上げている。

Another Story

演奏がおしゃれな曲。タイトルの「Another Story」というのは前作「靴ひも」の物語ともう一つの物語という意味。両方とも歌詞の中にバスが登場する。

PIANO MAN

「Another Story」と「PIANO MAN」はアルバムの中盤を飾っているが、比較的優しい雰囲気の曲が多い中この二曲はとにかく音楽で楽しませることに専念しているように感じる。

もっと

前作に収録された「僕らの音」と同時期にはできていた曲だという。911に関して歌った歌。「どんな理不尽もコメディーに見えてくるまで 大きいハート持てるといいな」という歌詞が秀逸。911という遠い世界の出来事を歌いながら、日常の悲しみにも寄り添える歌詞になっている。

やわらかい風

まさに『HOME』の世界観を忠実に再現している。ピアノやストリングスで優しい雰囲気を作り出している。春になり温かくなってきたころに聞きたくなる曲。

ポケットカスタネット

『Q』に収録されている「CENTER OF UNIVERSE」と同様、曲の途中でテンポが上がったり曲調が変わるというのはミスチルがよく使う手法。その後のライブでも何度か演奏されいる曲で、メンバーの思い入れも強いのかもしれない。「お天気がすぐれない日は君の心にある雨雲を 取り除いて太陽を差し出せる存在 そうありたい」という歌詞にまさに彼らのバンドとしての理想像が描かれているような気がする。

 

HOME(通常盤)

HOME(通常盤)

 

 

アルバム『SUPERMARKET FANTASY

終末のコンフィデンスソング

なんの変哲もない日常を描いた一曲。ギターのイントロやAメロの脱力した感じは「このアルバムは肩の力を抜いて聞いてくれよ」というメッセージにも感じる。音楽配信等がスタンダードになってきていた時代、音楽が消費されることが当たり前となりつつあった時代を憂いながらも、アルバムタイトルにもあるスーパーマーケットのように消費されることを受け入れ、とりあえず今を楽しもうという今作のコンセプトが感じられる一曲でもある。

 

ちなみにこの曲のタイトルから当初「ミスチル解散説」なるものが出たらしい笑 しかも結成20周年記念でこのアルバムを引っさげたツアーのタイトルも「終末のコンフィデンスソングス」というタイトルであっただけに、ファンの間で不吉な予感が出てくるのも納得。

少年

世界観としてはどこか「靴ひも」に似ている気がする。溢れる情熱と青春感。歌詞も秀逸。「日焼けしたみたいに心に焼き付いて 君の姿をした跡になった」「ひまわり熱りが取れなくてまだ消えずにいるよ」であったり、「蝉が死んでいったって熱り取れなくて」という表現からも夏の終わりの曲のように感じる。

ロック調の曲であるのだが、ギターがそこまで主張していないのがなんだかもったいない曲な気もする。この時期はプロデューサーの小林武の影響が最も強かった時期のようにも思える。『HOME』あたりから、コバタケの影響が強くなりすぎて、楽曲がピアノまみれになったなどという批判がちょくちょく出ていた。確かに深海期のミスチルはこの時代よりロック色が強かった。その当時のミスチルが好きなファンにとってはこの時代のミスチルの曲に刺激が足りないと感じてしまうのもわからなくもない。

口がすべって

桜井はこのアルバムを生活の中のお茶づけくらいに捉えてくれればいいと語っている。「口がすべって」そんな人生のバックトラックになることに徹しているように感じさせられる。桜井の中でエゴのようなものがこの時期完全に消えていて、内面吐露のようなものに全く興味がなくなっていた時代。この曲はカップルのいざこざを書いていながら、国家間の争いのような裏の壮大なテーマも込められた楽曲である。今度流れ星を見たら自分以外の誰かのために祈ろうというCメロの歌詞はまさに当時のミスチルの音楽そのものだ。

水上バス

地味にファンから愛されている曲。「水上バス」に乗りながら観光客に混じって笑って手を振る君という、めちゃくちゃマニアックなシチュエーションを歌っているのに、なぜか自分の経験に落とし込めるように感じさせてくれるのがこの曲の凄さだと思う。この曲もとにかく作り手のエゴがそぎ落とされている。このアルバムはミスチルビギナー向けという評価を良く受けるが、確かにこの曲は相当とっつきやすい。しかし一方で「ミスチルも丸くなってしまったなぁ」と思ったファンもいたことは間違いない。

東京

「口がすべって」「水上バス」「東京」の三曲は決して派手な曲ではないが、このアルバムの核となっていると僕は解釈している。くるりやきのこ帝国、ケツメイシ福山雅治など名だたるアーティストたちが名曲を残している「東京」というタイトル。ミスチルの「東京」が他のアーティストの「東京」と違うのは、東京出身者からの視点で東京が描かれているという点である。目まぐるしく変わり、愛着を持つ間もなく変化していく無機質なビルが立ち並ぶ東京をポジティブに描いている点が、このアルバムのコンセプトにピッタリだ。「この町に大切な人がいる」というフレーズは企業のキャッチコピーにも使えそうなクオリティー笑

羊、吠える

Aメロの脱量感がたまらなくいい。天頂バスや終末のコンフィデンスソングのAメロもそうだが、時々見せるこの脱力感のミスチルの一つの武器である。当時ミスチルは優しい音楽を歌うイメージを持たれており、バンドとしても、もはやわざわざ尖った曲を作らなくてもやっていけるような地位にいた。おそらく私生活でも子宝に恵まれ、再婚した奥さんとの生活に満足していたのだろうか。そんな中現状に満足してしまっている自分を憂いているような曲にも感じる。

 

SUPERMARKET FANTASY [初回限定盤:CD+DVD]

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アルバム『SENSE』

I

このアルバムはMr.Childrenと小林武の音楽の才骨頂に達したアルバムだと思う。このアルバムはプロモーションも全くせず、センスプロジェクトと呼ばれる特設サイトにて「ドビウオニギタイ」という謎のメッセージのみが提示されたり、謎すぎるCMを売ったり、曲名とアルバムタイトルを発売まで一切明かさないという史上初の試みをして見せた。

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そんな中で一曲目がこのインパクトなのだからかっこよすぎる。HOME~an imitation blood orangeまでの丸くなったミスチルの中では異彩を放つアルバムとなっている。

I'm talking aout Lovin'

初期のような初々しさの楽曲だがさすがにベテランとなっただけあってかなり完成度が高い。

ロックンロールは生きている

ベスト盤にも収録された「擬態」と並んで。アルバムの核となる一曲。ミスチルは自他ともに認めるポップスバンドであるが、彼らの中にもロック魂が生きているという意思表示の一曲でもある。ちなみに『SENSE』のクジラが水面に出てくるジャケット。一年以上沈黙を続け、突如としてこのインパクトのある作品を出した当時のミスチルを象徴ている。ちなみに当初コバタケが考えていたアルバムタイトルの候補には「クジラ」という名前もあったそう。そんな水面から飛び上がったクジラとこの曲のイメージがぴったり合う。

ロザリータ

「ロックンロールは生きている」からこの曲への繋ぎがとてもいい。こういう完成度の高いものはやはりコバタケがいたからこそ作れたものなのだろう。憂鬱でけだるい雰囲気と終始おしゃれなアコギがなり続けている感じがいい。スナックのママが歌っていそうな昭和感溢れる一曲。決して派手な曲ではないのだが、管理人である私がミスチルを好きになるきっかけを作ったのが実はこの曲だった笑 おそらくミスチルファンの中で「ロザリータ」を聴いてファンになったという人はほぼいないだろう笑 

 

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アルバム『[(an imitation)blood orange]』

hypnosis

雰囲気で言えば「終わりなき旅」のような感じだろうか。「終わりなき旅」はギター中心のアレンジであるのに対して「hypnosis」はストリングスが中心となっている。デビュー20周年を記念するPOPSAURUS2012のインタビューにて桜井は「また終わりなき旅のように誰かの背中を押せるような曲が生まれたらうれしい」という旨のことを話している。そんな楽曲を目指したのが「hypnosis」なのかもしれない。しかし後に発売する「REFLECTION」に収録されている「足音」や「Starting Over」も同じような系統の曲だが、この二つの存在感が大きすぎて、「hypnosis」の影が薄くなってしまっている感はある。個人的な解釈ではあるが、この曲が次の作品となる「REFLECTION」に影響を与えている気がしないでもない。

イミテーションの木

とても温かい歌。田原さんのギターがとても聞いていて気持ちがいい。前作では「擬態」や「ロックンロールは生きている」にもあるように、「偽物に騙されるな!」というテーマがあったのに対し、今作では「張りぼてでも人を癒せるならいい」という対称的なテーマを持ってきているのが印象的。ブラッドオレンジというアルバムは批判意見も多く集めた。確かにこのような音楽はすでに『SUPERMARKET FANTASY』でやっているし、マンネリ化している感が否めない。そして後のインタビューでも明らかとなっているが、このアルバムが発売する前にコバタケは「POPSAURUSU2012」のツアーを境にミスチルから手を引こうと思っていたそう。しかしメンバーとしてはまだまだコバタケに残っていてほしいと思っていたらしい。

 

コバタケとミスチルの音楽は確かに前作『SENSE』で完成していた。そのままの構成でこれ以上新しい刺激を作れるような状況下にはなかったのかもしれない。そんな背景を踏まえずに曲として聞けば「イミテーションの木」は素晴らしい曲なのだが、当時のミスチルの文脈を踏まえると、多くのファンはもっと刺激のある物を期待していたのかもしれない。

インマイタウン

年末になると必ず聞きたくなる曲。ジャジーでおしゃれでかつかっこいい。未だにライブでは披露されたことがないが、ぜひライブで聞いてみたい一曲。ただ演奏と世界観の再現が難しそう。

過去と未来と更新する男

明るいポップス系の曲が多い中で異質な雰囲気を出しているのがこの曲。アルバム発売当時私が最も聴いた曲でもある。占い師が主人公となっており、恐らく震災の影響をかなり受けている楽曲。このアルバム全体に言えることだが震災の一年後に作られたこともあり、かなりそれが意識されているように感じる。この曲もそうだが、アルバムを通してナカケーのベースがめちゃくちゃかっこいい。

 

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付)

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まとめ

ここまでHOMEからブラッドオレンジまでの楽曲を見てきたが、この時期はミスチルがもっとも丸くなっていた時期かもしれない。ライブでも確かにピアノメインの楽曲が増えた。それをコバタケのせいにする意見もあるが、バンド全体としてこの時期は安定志向に入っていて、リスナーを感動させることにフォーカスを置いていた時期だったのかもしれない。この反動もあってか次回作にして最新作の『REFLECTION』ではミスチル史上最もインパクトの強いアルバムとなった。そして何よりコバタケが製作の途中で製作チームから脱退している。これにより、より四人のバンドとしての意識が強まった。次回はそのあたりの経緯やREFLECTIONの楽曲を紹介していきたい