ベスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る② (It's a Wonderful World~I♡U)

 昨日はデビューからアルバム『Q』までの約10年間のミスチルの歴史をベスト盤でもシングル曲でもないアルバム曲とともに振り返った。
今日はアルバム『It's a Wonderful World』から『I♡U』までの期間を振り返る。深海期を終え、純粋に音楽を楽しむ桜井の才能がとにかく輝いていたのがこの時代だと思う。

アルバム『It's a Wonderful World』

Dear Wonderful World & It's a Wonderful World

アルバム『It's a Wonderful World』のリードチューンである二曲。アルバムの序盤と最後に各楽曲が収録されている。2002年のメジャーデビュー記念日に発売されたこのアルバムは前年の911の影響を強く影響を受けている。「醜くも美しい世界」というのがこのアルバムのキーワードであるが、世界が不安に満ち溢れる中で彼らはよりエンターテイメント性の強いポップスへと舵を切ったのであった。そんな深海期を終えたミスチルの新境地がこのアルバムといえるだろう。

One Two Three

別れを思わせる歌詞だが、ポップなメロディ。甘くてほろ苦い青春の一幕。ただ相手の幸せを祈り後ろを振り向かずに前に進む主人公の心情が描かれている。終盤ではアントニオ猪木の演説が挿入されている。2015年の対バンツアーで発売後13年の時を経て初めてライブで披露された楽曲。

渇いたkiss

こちらもかなり人気な歌。感情の微分の天才桜井和寿の表現力が圧巻。当初はもっとポップな曲だったそうだが、少しジャジーな仕上がりになっている。リズム隊はこの曲でかなり手こずったそう。今までのミスチルのないリズムの刻み方の曲であったので無理はない。

ファスナー

スガシカオを意識して作ったというこの曲。歌詞の露骨な性描写や恋人に傷つけられた男を歌う感じがすごくスガシカオっぽいw のちにスガシカオ本人にもカバーされている。このアルバムはバンド構成での作曲を前提としていない曲が多い。この時期の桜井は恐らく作品の完成度が何より大事で、Mr.Childrenであるかどうかということにはフォーカスを置いていなかったように感じる。

LOVEはじめました

初期のミスチルが好きな人はびっくりするだろうというようなことを桜井もインタビューで語っていたがまさにそんな曲。ミスチルの闇の部分をロックではなくポップスで表現した曲。冷やし中華始めました的なノリで消費される愛について歌った曲。

UFO

不倫時代の桜井の気持ちを吐露した曲と言われている。メロディは爽やかで青春感が溢れているのだが、歌詞は罪悪感やドロドロの三角関係を描いている。この曲はまだライブで披露されたことがない(はず?)だがファンの評価も高い。「UFOこないかな?」という投げやりな歌詞が好きだ笑

アルバム『シフクノオト』

言わせてみてぇもんだ

このアルバムの当初のタイトル候補は「コミックス」。それぞれの曲が作者の違う週刊誌のようなアルバムを作りたかったそう。 桜井和寿の変態っぷりが出ている曲。現状を受け入れようというミスチルの新しいスタイルを体現した曲の一つ。

PADDLE

アルバム「シフクノオト」の二曲目に収録された曲。前作発売後、桜井が脳梗塞になり活動休止を挟んだMr.Children。ドラムのジェンのモチベーションが上がらず、活動再開をためらっていたジェンに桜井和寿がこの曲のデモテープを送り、活動再開へと踏み切ったという曲。ドラマ―として葛藤があったジェンにこれほどまでに前向きな曲を送った桜井。バンドとはいいものだと改めて思わせられる。ミスチルの中でも突き抜けて明るいポップス。「新しい記号を探しに フラスコの中飛び込んで」というのはこのアルバムを象徴するフレーズの一つだろう。

花言葉

初々しい曲。好きだった女の子に振られてしまった男の子の歌。ちなみにコスモスの花言葉は「乙女の純情」らしいw

Pink~奇妙な夢

変態系の曲の一つ。ブルージーな重々しいギターと桜井のコーラスが絶妙。AメロBメロは不気味な感覚を与えるのだが、サビでなぜか爽快感さえも覚える桜井のシャウト。レコーディング時には「サビの声が健康的過ぎるということで鼻をつまんで歌おうかな」という会話の一幕があった。

天頂バス

アルバムのプロモーションに使われた一曲。「言わせてみてぇもんだ」「Pink~奇妙な夢」など桜井のアベコベな脳内をそのまま曲にした作品が多い『シフクノオト』。韻を踏んだり、スガシカオ風のAメロを作ったり、遊び心があふれ出ている。

空風の帰り道

これもまた名曲。夕方やデートの帰り道におすすめの一曲。このアルバムの発売前、脳梗塞桜井和寿は死の淵まで追いやられた。ある意味それがミスチルのその後に大きな影響を与えていると思う。家族や身近なものへの愛に溢れた曲がその後のアルバムを見ると増えている。an imitation blood orangeツアーのアンコールの最後で歌われたというレア曲。

アルバム『I ♡U』

Monster

ミスチルがハードロックをやったらというコンセプトで作られたこの曲。アルバム『I ♡U』のテーマは衝動である。愛と狂気のようなものが描かれた作品であると思う。桜井自信が「無性に叫びたくなる衝動を曲にした」と語っているが、「Monster」や「ランニングハイ」などの狂気に満ちた曲とそれとは対称的な「僕らの音」や「隔たり」などの静かな曲が混在し、互いにアルバムの軸を担っているのがこのアルバムの独特の空気感を出している。

靴ひも

こういうさり気ないアルバム曲で桜井和寿の良さが出ると思う。感情描写がとにかくうまい。

CANDY

ファンからの人気も熱い曲。恋愛をしているときのやるせない気持ちやふとした瞬間に爆発してしまう感情を描いている。「孤独が爆発する」というのが収録されているアルバムのテーマである「衝動」というキーワードに繋がっている。特にミスチルにはまり始めた時にこの曲を聴いて衝撃を受けたという声をよく聞く(というか僕のことですね。はい)。Aメロに出てくる「寝たふり」という歌詞は「未来」や「ランニングハイ」などでも登場する。おそらく意図的なのだろう。

潜水

アルバムの最後の曲。命を感じる曲。死の寸前までいった桜井和寿だからこそ書ける曲なのだと思う。この曲はアルバム『深海」の最後に収録されている「深海」と似ている。「深海」では進化か退化かという問いを残し、心の奥底の深海を泳ぐシーラカンスを描いている。一方「潜水」では近所のプールを泳ぐ等身大の桜井和寿が描かれている。死の淵を経験した彼にとって音楽とは進化でも退化でもない。生きていることが感じられる瞬間こそ彼にとっての音楽だったのだ。彼の人生の背景を知れば、曲に登場する「あぁ生きているって感じ」という歌詞の意味が分かるだろう。

まとめ

この時期の曲はとにかく一曲ごとの作品の完成度が高い。ミスチル現象を終え、アルバム『Q 』ではアルバムの売り上げ連続首位記録を浜崎あゆみに破られたMr.Children。そんな彼らが圧倒的な曲のクオリティーでモンスターバンドとしての盤石の地位を奪いに行ったのがこの時期だろう。「くるみ」や「sign」、「HERO」など今でも人気の高いシングル曲が立て続けにリリースされたのもこの時期である。ミスチルの「優しくてさわやかな青年がラブバラードを歌っている」ようなイメージは恐らくこの時代に醸成されたのだろう笑
 
次回はMr.Childrenの音楽に対する意識の転換期ともいるであろうアルバム『HOME』について見ていく。