スピッツ伝説の名曲「8823」について

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8823はスピッツが2000年に発表したアルバム「ハヤブサ」のタイトルチューンである。
 
今でもライブでは定番の曲となっており、スピッツの中でもトップクラスの疾走感を誇るロックな一曲だ。

テーマは「自由の獲得」と「社会からの解放」?

この曲は聞く人の境遇によって解釈が左右される曲だと思う。ある人はこの曲が駆け落ちの曲であるという批評をしていたがそれも非常に面白い評論だと思った。僕はこの曲を誰か特定の相手に向けて歌っているように見せかけて自分自身にメッセージを投げかけている曲なのではないかと思う。
 
8823のテーマは「自由の獲得」と「社会からの解放」なのだと思う。世間から否定されたり、馬鹿にされることに怯えながらも懸命に自由を模索する主人公の歌だ。
 
アルバム「ハヤブサ」はスピッツが商業的な成功を経て、世間が思うスピッツ像と自分たちが目指すスピッツ像の間に生じたズレに違和感を感じていたメンバーが、もう一度ロックの原点に帰ろうという事をテーマに作ったアルバムだ。ロックとは自由を求めた人間たちが生み出した音楽だ。そんな(僕の中では)ロックのあるべき姿が表現されているのがこの8823だ。
 
前置きが長くなってしまったが歌詞の考察をしてみたい。

”僕なりの”「8823」の歌詞の解釈

まずはAメロの二つのフレーズを見てみたい。
 
さよならできるか隣近所の心
思い出ひとかけ内ポケットに入れて
友達や周りの人々とはそこそこ仲が良く、へらへら笑い合うことが出来る関係なんだけど、
本当の野望はもっと大きくて、そのためには今の居心地のいい関係から抜け出さなければいけない。
それを決意した主人公は思い出を懐に入れながらも別のステージに向かうことを決意する。
あの塀の向こう側 何もないと聞かされ
それでも感じる赤い炎の誘惑
例えば雲の上にいる成功者や幸せそうに過ごしている人たち。「あいつらは運がよくて恵まれていたからだよ。」と誰もがいうが、ほんとはそんなことじゃなくてあの塀(社会の規範)を超えていって苦しみながら手にした成功なんじゃないか、と主人公は考える。
そんな輝いていて、恐怖に満ち溢れた世界が主人公を手招きし、いよいよ彼は全速力で塀を超えて外の世界に向け走り出す。
誰よりも早く駆け抜け LOVEと絶望の果てに 届け
他の誰とも歩幅を合わせず、自分の足で人生を生きる。
そして愛とか絶望とか、本気で生きていないと感じられない経験をし、その果てにある何かに届くのではないかと信じ走り続ける。
君を自由にできるのは 宇宙でただ一人だけ
自由ってのは誰かがくれるものじゃない。自分の手でつかむものだ。
「お前を自由にするのはお前なんだ」そんなメッセージに頬を殴られるような衝撃を受けたのを今でも覚えている。
 
そしてそれ以上の衝撃を二番のサビで与えられた。
荒れ狂う波に揺られて二人トロピコの街を目指せ
君を不幸にできるのは宇宙でただ一人だけ
世間の荒波に揉まれてもとにかく本心で欲しいと思うものを目指せ。
「お前が死んだときにお前が不幸だったかどうかを判断するのは他の誰でもないお前なんだ。」
そんなメッセージが込められているんだと思う。
この歌詞はSNSの台頭によって人から幸せに見られることが第一の目的となった現代に対しても通じるメッセージだろう。
簡単なやり方でいいよ ガンダーラじゃなくてもいいよ
愚かなことだって風が言う だけど
完璧じゃなくてもいいし、かっこ悪くてもいい。
もうとっくに世間からは嘲笑の的となり、愚か者だと認定された。
だけど成し遂げたいことが彼にはある。
今は振り向かず8823(ハヤブサ) クズと呼ばれても笑う
そして君を自由にできるのは宇宙でただ一人だけ
今は振り向かず君と...
今は前だけを見て走り続ける。
ロックンローラーというのは良い子ちゃんになってはいけない。
だから人から嫌われ、クズと呼ばれるのは本望なのだ。
それくらいにならないと自由の獲得なんてできない。
過去を捨てることはしないけど、振り返ることはない。
とにかく前に進む事だけしか彼には自我を保ち生き残る術がなかった。

最後に

スピッツの過渡期に作られた8823。
もしかしたらこの歌詞は草野さんからバンドメンバーに向けて書かれた歌なのかも。
なんてことを妄想してみると、バンドっていいなぁなんて思えたりもする。
 
この曲をたまたまyoutubeで見つけて聞いたのは高校生の時。
自分の持っていたスピッツのイメージが180度変わった。
退屈な大人にはなりたくないとこの曲を聴くといつも思う。
決断に迷ったり、人から笑われるんじゃないかって怯えてしまうときはこの歌を聴く。