べスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る 最終回 (最新にして伝説のアルバムとなったREFLECTION)

今回でミスチルの歴史の振り返りはラストとなるが、ここ3年ほどのミスチルの活動はとにかく活発。2014年に入り、レコーディングも活発化し、秋にはファンクラブ限定で未発表の新曲のお披露目ライブを開催し、その模様を映像化したドキュメンタリー映画「REFLECTION」を上映、2015年春からは未発表曲発表のためのアリーナツアー。そして2015年6月4日にアルバムを発売し、そのままドームツアー「未完」へと移っていき、REFLECTIONプロジェクトが終了したと思いきや、その直後に対バンツアーを発表。アジカンくるりエレカシ、ヒートウェーブ、小谷美沙子などと対バンをして音楽性に新しい風を吹き込ませた。2016年から現在にかけてはホールツアーを二本開催し、夏からはドーム・スタジアムツアー。メンバーの体調が心配になるほどのハードスケジュールである。これだけ成功したバンドがその場に留まろうとせずこれだけの活動をしている背中を見て励まされているファンも多いのではないかと思う。

 

進化し続けているミスチルの最新作REFLECTIONは衝撃的なものであった。まずブランディングの観点からも、発表前に新曲お披露目ライブを開催したり、その模様を映画化し、ファンクラブの会報などでは楽曲の制作レポートを出したりと、ファンの期待値が絶頂となったところでアルバムを発売するという手法が素晴らしかった。またパッケージの種類も2種類あり、NAKEDとDRIPという23曲全部入り+ハイレゾ音源データ+DVD+デモテープ視聴権のデラックス・エディションとDRIPという12曲入りのノーマルサイズのアルバムが同時リリースされた。プロモーションとしても新しい試みを果たしたアルバムREFLCETIONのアルバム曲を幾つか紹介していきたいと思う。

アルバム『REFLECTION』

Fantasy

スピッツの『ロビンソン』をイメージして作ったそう。サビの最後で着地しない感じは確かにロビンソンっぽい。イントロは小田和正の『ラブストーリーは突然に』のようにインパクトがあり、ライブで湧くようなものにしたかったそう。仮タイトルは「王道」というだけあって、王道でかっこいい曲でありながら、サビは皮肉に満ちている。

FIGHT CLUB

映画「ファイトクラブ」のブラピに憧れた男の歌。疾走感と勢いがめちゃくちゃあるのにどこか物憂げな雰囲気が漂う。勢いに任せているけど本当は不安で仕方がない思春期の気持ちを表現している。激しい曲なのにCメロからのセッションが入ってくるのも面白い。闘争心を向上させたい人におすすめの一曲。

斜陽

当初アルバムの方向性として「自分たちが年老いていき、世代交代して新しい世代にうまくバトンタッチ出来たらいいな」みたいな方向だったと何処かで話していた気がする(どこだったかは忘れたw)。「斜陽」や「FIGHT CLUB」、終盤に収録されている「進化論」などからもこのアルバムの裏テーマのようなものを受け取ることができる。その反動として「未完」という攻撃力100の守備力0みたいなロックみたいな曲が収録されていたりもする。

 

音楽としては大滝詠一の「さらばシベリア鉄道」とビートルズの「エリナ・リグビー」をあわせたイメージのものを創りたかったそう。独特なリズムや民謡っぽい感じがオリジナリティーを醸し出している。ミスチルの曲の中でも極めて芸術性が高い曲だと思う。『Q』や『 DISCOVERY』時代のエゴ丸出しの桜井に『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』 の頃の共通項の大きい歌詞が併せ持たれた完成度の高い曲になっているのではないだろうか。

蜘蛛の糸

とても大人で官能的な雰囲気の曲。3曲目の「斜陽」に続き文学作品から名前を取っているのがこの曲。イメージとしてはボズ・スキャッグスの「We’re All Alone」の世界観らしい。確かにしっとりしたピアノと美しいメロディーの世界観はとても近い。2015年のスタジアム・ドーム、アリーナで披露されたが、巨大スクリーンに美しい映像を映して演奏されていたのがとても印象的。

I Can Make it

ギターを3本以上重ねているというこの曲。桜井の作家としての苦悩のようなものが描かれている。サビの感じやベースラインがすごく洋楽っぽい。

ROLLIN’ ROLLING~一見は百聞に如かず

こういう曲をミスチルファンは長らく待っていたのではないかという曲。感情を共有する音楽ではなく桜井のエゴ全開の曲。後に登場する「REM」や「WALTZ」のような重たいロックではなく、ブラスも入れたキレのいいスピード感のあるロックというイメージ。

運命

初期ともまた少し違うキラキラした遊び心全開のかわいらしい曲。主人公の童貞感がとても良く、世界観的には「HANABI」のカップリング曲の「タダダキアッテ」に近いかもしれない。とびきり明るいんだけど、好きな女の子の涙をいつでもふけるようにハンカチを持ち歩いたり、妄想に身を委ねて自分を慰めたりとストーカー臭さえもする危ないけど可愛い曲。お蔵入り候補だったらしいけど、入れてくれてよかった笑

忘れ得ぬ人

とことん暗くてナルシズムのあふれる歌。EXILEのATSUSHIやK-POPスターが歌ってそう。

You make me happy

なんだかんだこういう曲は時間がたっても飽きないんだよなという曲笑。ゴージャスでハッピーな曲。ジャジーで聞いててとても気持ちがいい。

Jewrly

おしゃれな曲。スナックのママが歌っていそうな感じはSENSE収録の「ロザリータ」に近いかも。こちらはピアノよアコギがとてもおしゃれ。桜井曰く汚れっぽい田原のギターがいい味を出している。

REM

ダークなミスチルを極めた曲。ミスチルのロック系の曲を聞いていると桜井はMUSEのようなパワー系ゴリゴリロックが好きなのだろうなぁと感じる。そんなパワー系の桜井を存分に楽しめるのがこの曲。サマーソニック2013で披露されたのがとても懐かしい。この曲が出来たのを皮切りに今回のアルバムが振り切れる方向に向かったそう。そういう意味ではREFLECTIONの中でも鍵となる一曲。

WALTZ

桜井本人はこの曲において自身のアーティストエゴが最も現れたとも語っている。とてもダークだがREMのように勢いで押し切っていくというよりは曲の展開が変化しながら進んでいく。ミスチルの歴史の中でもこんなに実験的なロックはあったかというレベルでぶっ飛んだ芸術的なロック。イントロの爆発感からの落ち着いたAメロがとてもかっこいい。「誰も欲しくない 必要としないなら 耳を塞げ」という攻めのミスチルが見られるのはファンにとってはたまらなく嬉しい。この曲の歌詞は就活生の厳しい現実を歌った曲なのではという説が巷では流れている笑

遠くへと

ユーミンの「中央フリーウェイ」を意識したそう。爽やかな晴れた日のドライブで聞きたい歌。恐らく物語の主人公はバイクに乗っているのだが、車やバイク問わず、ロードムービーに並んでミスチルの中でも有数のドライブソングになっていると思う。

I wanna be there

リラックスいた雰囲気の歌。一人旅をしている時にこんな曲を聴くと泣いてしまう笑

ヒッチハイカーのようなワイルドな雰囲気なのだがどこか物憂げな雰囲気を漂わせているのがとてもいい。明るさの中に哀愁を漂わせているという意味では「FIGHT CLUB」に近い(音楽的には全然違うと思うが)。

未完

Mr.Childrenの骨格の部分だけが剥き出しになっている曲。肉付けが全くされていない。ゴージャス感がまったくなく、ボロボロになった男が自由を求め叫んでいるような感じだろうか。REFLECTION前後のミスチルはとにかく四人の物語を強く強調しているように思う。コバタケと制作過程の中決別し、バンドメンバー四人が主体性を持ちMr.Childrenを作っていくというのが強く感じられた。ライブの中でもジェンがコール・アンド・レスポンスをしたり、田原さんとナカケーがMCで話したり。これまで桜井和寿一人のバンドという側面が強かったミスチルだが、そんな彼を支え続けてきたメンバーがいたということを再確認させられ、バンドっていいなと思わせてくれるのがこのアルバム。

 

「未来へ続く扉 相変わらず僕はノックし続ける」という歌詞は終わりなき旅の「閉ざされたドア」のその先にある物語を思わせる。そしてこれだけの年数を重ねてもまだチャレンジ精神を失っていないんだというバンド四人による宣言のような曲だ。

 

 まとめ

ミスチルがこれまで培ってきて持ち合わせる球種を全て投げたと櫻井は語っている。マスという概念が崩壊しかけている中で、これまでのミスチルの最も得意としていたお茶の間レベルに投げかける曲だけでは生き残れないという危機感がメンバーにはあったのだそう。そんな環境なだけあって、これまでミスチルファンにしか受け入れられなかったであろう曲も全て盛り込んだアルバムを出したということだ。REFLECTIONはいわばこれまでのミスチルの振り返りという意味合いと新しいミスチルという意味合いの二つを持っていたアルバムだったように思う。『HOME』や『SUPERMARKET FANTASY』の頃は客に与えることに専念し続けたミスチル。その反動としてファンとしては彼らのエゴの部分をもっとみたいと思うようになった。そんな中で彼らはバンド四人の物語を発売前のライブやドキュメンタリー映画、発売後のライブで作り上げた。

そして今もMr.Childrenは新たなチャレンジをしている。マスの消失という文脈からか、最近のミスチルからはコアなファンを大事にする姿勢が強く見られる。小規模なホールツアーの開催やマニアックなセットリストの構成などコア層に向けた活動が増えているように感じる。そしてREFLECTIONでは四人で作り上げていくサウンドを強調していた一方で最近のホールツアーではサポートメンバーを多く加え、よりゴージャスで彩りのある音楽を追求している。

ミスチル現象を終え、盤石な地位を気づき、富も名声も全て手にしてもなおバンドが進化し続ける。そんな普通じゃないことをやり続けているのがMr.Childrenなのだと思う。これからも彼らは新しいチャレンジで僕らをワクワクさせてくれるに違いない。

 

4回にも渡る長編の特集で書きたいだけ書かせていただきました。お付き合いいただき誠にありがとうございます!

dorgan.hatenablog.jp

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べスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る③ (HOME~ブラッドオレンジまで)

これまで二回にわたってMr.childrenの歴史を振り返ってきた。

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今回はアルバム『HOME』以降のミスチルを見ていきたい。私は『HOME』以降のミスチルは音楽に対してのスタンスが大きく変わったように感じる。これまでミスチルの音楽は彼ら自信を救うために奏でられてきたように感じる。しかし『HOME』以降のミスチル(というより桜井和寿)は誰かのために音楽を奏でるようになったように思う。このころ、彼自身の活動にもそんなスタンスの変化が表れている。2004年に環境問題や社会問題に対しての資金を集めるためのバンドであるBANK BANDを結成。その後2005年から2012年までの間毎年夏にap bank fesというイベントを開催。桜井自身この活動を音楽への恩返しと述べている。これまで音楽によって自分自身を救済し続けてきた彼の音楽への取り組み方が大きく変わったのはこの時だろう。

 

2006年のap bankで深海期には考えられないような当時の新曲「彩り」を披露した。その際のMCからも当時の彼の音楽に対する姿勢が垣間見える。

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そんな「彩り」も収録されたアルバム『HOME』のアルバム曲からまずは何曲か紹介していく。

アルバム『HOME』

Wake me up!

夜明けを祝福するかのような明るいメロディー。「表彰台に上った記憶なんかない それで何不自由なく過ごしてきた」や「革命は起きない ありきたりの日々を 祈るように生きよう」というフレーズがこのアルバムの世界観を作り上げている。

Another Story

演奏がおしゃれな曲。タイトルの「Another Story」というのは前作「靴ひも」の物語ともう一つの物語という意味。両方とも歌詞の中にバスが登場する。

PIANO MAN

「Another Story」と「PIANO MAN」はアルバムの中盤を飾っているが、比較的優しい雰囲気の曲が多い中この二曲はとにかく音楽で楽しませることに専念しているように感じる。

もっと

前作に収録された「僕らの音」と同時期にはできていた曲だという。911に関して歌った歌。「どんな理不尽もコメディーに見えてくるまで 大きいハート持てるといいな」という歌詞が秀逸。911という遠い世界の出来事を歌いながら、日常の悲しみにも寄り添える歌詞になっている。

やわらかい風

まさに『HOME』の世界観を忠実に再現している。ピアノやストリングスで優しい雰囲気を作り出している。春になり温かくなってきたころに聞きたくなる曲。

ポケットカスタネット

『Q』に収録されている「CENTER OF UNIVERSE」と同様、曲の途中でテンポが上がったり曲調が変わるというのはミスチルがよく使う手法。その後のライブでも何度か演奏されいる曲で、メンバーの思い入れも強いのかもしれない。「お天気がすぐれない日は君の心にある雨雲を 取り除いて太陽を差し出せる存在 そうありたい」という歌詞にまさに彼らのバンドとしての理想像が描かれているような気がする。

 

HOME(通常盤)

HOME(通常盤)

 

 

アルバム『SUPERMARKET FANTASY

終末のコンフィデンスソング

なんの変哲もない日常を描いた一曲。ギターのイントロやAメロの脱力した感じは「このアルバムは肩の力を抜いて聞いてくれよ」というメッセージにも感じる。音楽配信等がスタンダードになってきていた時代、音楽が消費されることが当たり前となりつつあった時代を憂いながらも、アルバムタイトルにもあるスーパーマーケットのように消費されることを受け入れ、とりあえず今を楽しもうという今作のコンセプトが感じられる一曲でもある。

 

ちなみにこの曲のタイトルから当初「ミスチル解散説」なるものが出たらしい笑 しかも結成20周年記念でこのアルバムを引っさげたツアーのタイトルも「終末のコンフィデンスソングス」というタイトルであっただけに、ファンの間で不吉な予感が出てくるのも納得。

少年

世界観としてはどこか「靴ひも」に似ている気がする。溢れる情熱と青春感。歌詞も秀逸。「日焼けしたみたいに心に焼き付いて 君の姿をした跡になった」「ひまわり熱りが取れなくてまだ消えずにいるよ」であったり、「蝉が死んでいったって熱り取れなくて」という表現からも夏の終わりの曲のように感じる。

ロック調の曲であるのだが、ギターがそこまで主張していないのがなんだかもったいない曲な気もする。この時期はプロデューサーの小林武の影響が最も強かった時期のようにも思える。『HOME』あたりから、コバタケの影響が強くなりすぎて、楽曲がピアノまみれになったなどという批判がちょくちょく出ていた。確かに深海期のミスチルはこの時代よりロック色が強かった。その当時のミスチルが好きなファンにとってはこの時代のミスチルの曲に刺激が足りないと感じてしまうのもわからなくもない。

口がすべって

桜井はこのアルバムを生活の中のお茶づけくらいに捉えてくれればいいと語っている。「口がすべって」そんな人生のバックトラックになることに徹しているように感じさせられる。桜井の中でエゴのようなものがこの時期完全に消えていて、内面吐露のようなものに全く興味がなくなっていた時代。この曲はカップルのいざこざを書いていながら、国家間の争いのような裏の壮大なテーマも込められた楽曲である。今度流れ星を見たら自分以外の誰かのために祈ろうというCメロの歌詞はまさに当時のミスチルの音楽そのものだ。

水上バス

地味にファンから愛されている曲。「水上バス」に乗りながら観光客に混じって笑って手を振る君という、めちゃくちゃマニアックなシチュエーションを歌っているのに、なぜか自分の経験に落とし込めるように感じさせてくれるのがこの曲の凄さだと思う。この曲もとにかく作り手のエゴがそぎ落とされている。このアルバムはミスチルビギナー向けという評価を良く受けるが、確かにこの曲は相当とっつきやすい。しかし一方で「ミスチルも丸くなってしまったなぁ」と思ったファンもいたことは間違いない。

東京

「口がすべって」「水上バス」「東京」の三曲は決して派手な曲ではないが、このアルバムの核となっていると僕は解釈している。くるりやきのこ帝国、ケツメイシ福山雅治など名だたるアーティストたちが名曲を残している「東京」というタイトル。ミスチルの「東京」が他のアーティストの「東京」と違うのは、東京出身者からの視点で東京が描かれているという点である。目まぐるしく変わり、愛着を持つ間もなく変化していく無機質なビルが立ち並ぶ東京をポジティブに描いている点が、このアルバムのコンセプトにピッタリだ。「この町に大切な人がいる」というフレーズは企業のキャッチコピーにも使えそうなクオリティー笑

羊、吠える

Aメロの脱量感がたまらなくいい。天頂バスや終末のコンフィデンスソングのAメロもそうだが、時々見せるこの脱力感のミスチルの一つの武器である。当時ミスチルは優しい音楽を歌うイメージを持たれており、バンドとしても、もはやわざわざ尖った曲を作らなくてもやっていけるような地位にいた。おそらく私生活でも子宝に恵まれ、再婚した奥さんとの生活に満足していたのだろうか。そんな中現状に満足してしまっている自分を憂いているような曲にも感じる。

 

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アルバム『SENSE』

I

このアルバムはMr.Childrenと小林武の音楽の才骨頂に達したアルバムだと思う。このアルバムはプロモーションも全くせず、センスプロジェクトと呼ばれる特設サイトにて「ドビウオニギタイ」という謎のメッセージのみが提示されたり、謎すぎるCMを売ったり、曲名とアルバムタイトルを発売まで一切明かさないという史上初の試みをして見せた。

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そんな中で一曲目がこのインパクトなのだからかっこよすぎる。HOME~an imitation blood orangeまでの丸くなったミスチルの中では異彩を放つアルバムとなっている。

I'm talking aout Lovin'

初期のような初々しさの楽曲だがさすがにベテランとなっただけあってかなり完成度が高い。

ロックンロールは生きている

ベスト盤にも収録された「擬態」と並んで。アルバムの核となる一曲。ミスチルは自他ともに認めるポップスバンドであるが、彼らの中にもロック魂が生きているという意思表示の一曲でもある。ちなみに『SENSE』のクジラが水面に出てくるジャケット。一年以上沈黙を続け、突如としてこのインパクトのある作品を出した当時のミスチルを象徴ている。ちなみに当初コバタケが考えていたアルバムタイトルの候補には「クジラ」という名前もあったそう。そんな水面から飛び上がったクジラとこの曲のイメージがぴったり合う。

ロザリータ

「ロックンロールは生きている」からこの曲への繋ぎがとてもいい。こういう完成度の高いものはやはりコバタケがいたからこそ作れたものなのだろう。憂鬱でけだるい雰囲気と終始おしゃれなアコギがなり続けている感じがいい。スナックのママが歌っていそうな昭和感溢れる一曲。決して派手な曲ではないのだが、管理人である私がミスチルを好きになるきっかけを作ったのが実はこの曲だった笑 おそらくミスチルファンの中で「ロザリータ」を聴いてファンになったという人はほぼいないだろう笑 

 

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アルバム『[(an imitation)blood orange]』

hypnosis

雰囲気で言えば「終わりなき旅」のような感じだろうか。「終わりなき旅」はギター中心のアレンジであるのに対して「hypnosis」はストリングスが中心となっている。デビュー20周年を記念するPOPSAURUS2012のインタビューにて桜井は「また終わりなき旅のように誰かの背中を押せるような曲が生まれたらうれしい」という旨のことを話している。そんな楽曲を目指したのが「hypnosis」なのかもしれない。しかし後に発売する「REFLECTION」に収録されている「足音」や「Starting Over」も同じような系統の曲だが、この二つの存在感が大きすぎて、「hypnosis」の影が薄くなってしまっている感はある。個人的な解釈ではあるが、この曲が次の作品となる「REFLECTION」に影響を与えている気がしないでもない。

イミテーションの木

とても温かい歌。田原さんのギターがとても聞いていて気持ちがいい。前作では「擬態」や「ロックンロールは生きている」にもあるように、「偽物に騙されるな!」というテーマがあったのに対し、今作では「張りぼてでも人を癒せるならいい」という対称的なテーマを持ってきているのが印象的。ブラッドオレンジというアルバムは批判意見も多く集めた。確かにこのような音楽はすでに『SUPERMARKET FANTASY』でやっているし、マンネリ化している感が否めない。そして後のインタビューでも明らかとなっているが、このアルバムが発売する前にコバタケは「POPSAURUSU2012」のツアーを境にミスチルから手を引こうと思っていたそう。しかしメンバーとしてはまだまだコバタケに残っていてほしいと思っていたらしい。

 

コバタケとミスチルの音楽は確かに前作『SENSE』で完成していた。そのままの構成でこれ以上新しい刺激を作れるような状況下にはなかったのかもしれない。そんな背景を踏まえずに曲として聞けば「イミテーションの木」は素晴らしい曲なのだが、当時のミスチルの文脈を踏まえると、多くのファンはもっと刺激のある物を期待していたのかもしれない。

インマイタウン

年末になると必ず聞きたくなる曲。ジャジーでおしゃれでかつかっこいい。未だにライブでは披露されたことがないが、ぜひライブで聞いてみたい一曲。ただ演奏と世界観の再現が難しそう。

過去と未来と更新する男

明るいポップス系の曲が多い中で異質な雰囲気を出しているのがこの曲。アルバム発売当時私が最も聴いた曲でもある。占い師が主人公となっており、恐らく震災の影響をかなり受けている楽曲。このアルバム全体に言えることだが震災の一年後に作られたこともあり、かなりそれが意識されているように感じる。この曲もそうだが、アルバムを通してナカケーのベースがめちゃくちゃかっこいい。

 

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付)

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まとめ

ここまでHOMEからブラッドオレンジまでの楽曲を見てきたが、この時期はミスチルがもっとも丸くなっていた時期かもしれない。ライブでも確かにピアノメインの楽曲が増えた。それをコバタケのせいにする意見もあるが、バンド全体としてこの時期は安定志向に入っていて、リスナーを感動させることにフォーカスを置いていた時期だったのかもしれない。この反動もあってか次回作にして最新作の『REFLECTION』ではミスチル史上最もインパクトの強いアルバムとなった。そして何よりコバタケが製作の途中で製作チームから脱退している。これにより、より四人のバンドとしての意識が強まった。次回はそのあたりの経緯やREFLECTIONの楽曲を紹介していきたい

ベスト盤に収録されていないアルバム曲でミスチルの歴史を振り返る② (It's a Wonderful World~I♡U)

 昨日はデビューからアルバム『Q』までの約10年間のミスチルの歴史をベスト盤でもシングル曲でもないアルバム曲とともに振り返った。
今日はアルバム『It's a Wonderful World』から『I♡U』までの期間を振り返る。深海期を終え、純粋に音楽を楽しむ桜井の才能がとにかく輝いていたのがこの時代だと思う。

アルバム『It's a Wonderful World』

Dear Wonderful World & It's a Wonderful World

アルバム『It's a Wonderful World』のリードチューンである二曲。アルバムの序盤と最後に各楽曲が収録されている。2002年のメジャーデビュー記念日に発売されたこのアルバムは前年の911の影響を強く影響を受けている。「醜くも美しい世界」というのがこのアルバムのキーワードであるが、世界が不安に満ち溢れる中で彼らはよりエンターテイメント性の強いポップスへと舵を切ったのであった。そんな深海期を終えたミスチルの新境地がこのアルバムといえるだろう。

One Two Three

別れを思わせる歌詞だが、ポップなメロディ。甘くてほろ苦い青春の一幕。ただ相手の幸せを祈り後ろを振り向かずに前に進む主人公の心情が描かれている。終盤ではアントニオ猪木の演説が挿入されている。2015年の対バンツアーで発売後13年の時を経て初めてライブで披露された楽曲。

渇いたkiss

こちらもかなり人気な歌。感情の微分の天才桜井和寿の表現力が圧巻。当初はもっとポップな曲だったそうだが、少しジャジーな仕上がりになっている。リズム隊はこの曲でかなり手こずったそう。今までのミスチルのないリズムの刻み方の曲であったので無理はない。

ファスナー

スガシカオを意識して作ったというこの曲。歌詞の露骨な性描写や恋人に傷つけられた男を歌う感じがすごくスガシカオっぽいw のちにスガシカオ本人にもカバーされている。このアルバムはバンド構成での作曲を前提としていない曲が多い。この時期の桜井は恐らく作品の完成度が何より大事で、Mr.Childrenであるかどうかということにはフォーカスを置いていなかったように感じる。

LOVEはじめました

初期のミスチルが好きな人はびっくりするだろうというようなことを桜井もインタビューで語っていたがまさにそんな曲。ミスチルの闇の部分をロックではなくポップスで表現した曲。冷やし中華始めました的なノリで消費される愛について歌った曲。

UFO

不倫時代の桜井の気持ちを吐露した曲と言われている。メロディは爽やかで青春感が溢れているのだが、歌詞は罪悪感やドロドロの三角関係を描いている。この曲はまだライブで披露されたことがない(はず?)だがファンの評価も高い。「UFOこないかな?」という投げやりな歌詞が好きだ笑

アルバム『シフクノオト』

言わせてみてぇもんだ

このアルバムの当初のタイトル候補は「コミックス」。それぞれの曲が作者の違う週刊誌のようなアルバムを作りたかったそう。 桜井和寿の変態っぷりが出ている曲。現状を受け入れようというミスチルの新しいスタイルを体現した曲の一つ。

PADDLE

アルバム「シフクノオト」の二曲目に収録された曲。前作発売後、桜井が脳梗塞になり活動休止を挟んだMr.Children。ドラムのジェンのモチベーションが上がらず、活動再開をためらっていたジェンに桜井和寿がこの曲のデモテープを送り、活動再開へと踏み切ったという曲。ドラマ―として葛藤があったジェンにこれほどまでに前向きな曲を送った桜井。バンドとはいいものだと改めて思わせられる。ミスチルの中でも突き抜けて明るいポップス。「新しい記号を探しに フラスコの中飛び込んで」というのはこのアルバムを象徴するフレーズの一つだろう。

花言葉

初々しい曲。好きだった女の子に振られてしまった男の子の歌。ちなみにコスモスの花言葉は「乙女の純情」らしいw

Pink~奇妙な夢

変態系の曲の一つ。ブルージーな重々しいギターと桜井のコーラスが絶妙。AメロBメロは不気味な感覚を与えるのだが、サビでなぜか爽快感さえも覚える桜井のシャウト。レコーディング時には「サビの声が健康的過ぎるということで鼻をつまんで歌おうかな」という会話の一幕があった。

天頂バス

アルバムのプロモーションに使われた一曲。「言わせてみてぇもんだ」「Pink~奇妙な夢」など桜井のアベコベな脳内をそのまま曲にした作品が多い『シフクノオト』。韻を踏んだり、スガシカオ風のAメロを作ったり、遊び心があふれ出ている。

空風の帰り道

これもまた名曲。夕方やデートの帰り道におすすめの一曲。このアルバムの発売前、脳梗塞桜井和寿は死の淵まで追いやられた。ある意味それがミスチルのその後に大きな影響を与えていると思う。家族や身近なものへの愛に溢れた曲がその後のアルバムを見ると増えている。an imitation blood orangeツアーのアンコールの最後で歌われたというレア曲。

アルバム『I ♡U』

Monster

ミスチルがハードロックをやったらというコンセプトで作られたこの曲。アルバム『I ♡U』のテーマは衝動である。愛と狂気のようなものが描かれた作品であると思う。桜井自信が「無性に叫びたくなる衝動を曲にした」と語っているが、「Monster」や「ランニングハイ」などの狂気に満ちた曲とそれとは対称的な「僕らの音」や「隔たり」などの静かな曲が混在し、互いにアルバムの軸を担っているのがこのアルバムの独特の空気感を出している。

靴ひも

こういうさり気ないアルバム曲で桜井和寿の良さが出ると思う。感情描写がとにかくうまい。

CANDY

ファンからの人気も熱い曲。恋愛をしているときのやるせない気持ちやふとした瞬間に爆発してしまう感情を描いている。「孤独が爆発する」というのが収録されているアルバムのテーマである「衝動」というキーワードに繋がっている。特にミスチルにはまり始めた時にこの曲を聴いて衝撃を受けたという声をよく聞く(というか僕のことですね。はい)。Aメロに出てくる「寝たふり」という歌詞は「未来」や「ランニングハイ」などでも登場する。おそらく意図的なのだろう。

潜水

アルバムの最後の曲。命を感じる曲。死の寸前までいった桜井和寿だからこそ書ける曲なのだと思う。この曲はアルバム『深海」の最後に収録されている「深海」と似ている。「深海」では進化か退化かという問いを残し、心の奥底の深海を泳ぐシーラカンスを描いている。一方「潜水」では近所のプールを泳ぐ等身大の桜井和寿が描かれている。死の淵を経験した彼にとって音楽とは進化でも退化でもない。生きていることが感じられる瞬間こそ彼にとっての音楽だったのだ。彼の人生の背景を知れば、曲に登場する「あぁ生きているって感じ」という歌詞の意味が分かるだろう。

まとめ

この時期の曲はとにかく一曲ごとの作品の完成度が高い。ミスチル現象を終え、アルバム『Q 』ではアルバムの売り上げ連続首位記録を浜崎あゆみに破られたMr.Children。そんな彼らが圧倒的な曲のクオリティーでモンスターバンドとしての盤石の地位を奪いに行ったのがこの時期だろう。「くるみ」や「sign」、「HERO」など今でも人気の高いシングル曲が立て続けにリリースされたのもこの時期である。ミスチルの「優しくてさわやかな青年がラブバラードを歌っている」ようなイメージは恐らくこの時代に醸成されたのだろう笑
 
次回はMr.Childrenの音楽に対する意識の転換期ともいるであろうアルバム『HOME』について見ていく。

アルバム曲でミスチルの歴史を振り返る① (EVERYTHING~Qまで)

2017年5月10日。Mr.Childrenがデビュー25周年を迎えた。このバンドがなぜこれほどまでに愛されるのかを考えてみたところ、一つの結論にたどり着いた。このバンドは一つの物語の上を生きているのだと思う。彼らのアルバムはストーリー性が強い。夢に向けて駆けあがる青年を描いた初期、夢を叶え虚無感に苦しんだ暗黒期、暗黒期から復活しポップスバンドとしてリスナーを楽しませると決めた2000年初期、死の淵にまで追い込まれ身近なものへの愛を歌うようになった2007年前後、音楽家としてのエゴを捨てリスナーの背中を押す曲を書き始めた2010年前後、バンドとしての真価を問い直した最新アルバムリフレクションなど、4人の進化がここまで明確に見られるバンドはない。まるで一冊の本を読んでいるような彼らのバンドとしての軌跡を、アルバム曲を紹介しながら振り返っていこうと思う。この記事ではシングル曲や認知度の高い曲はできるだけ避け、ある程度コアなファンにしか知らないような曲をあえて選んだ。「この曲がない。やり直し。」みたいなものがあればぜひコメント欄に書いてほしい。

 
ちなみに前回の記事がこちら

アルバム『EVERYTHING』

Children's World

最近は2016年夏の未完ツアーで披露されて話題を生んだこの曲。未完の映像作品ではイントロの部分で女の子が泣いているカットが印象的。Mr. Childrenという伝説の始まりとも言える一曲。大ヒット、全盛期から暗黒期、いろんな物語を経た彼らの原点が垣間見える一曲。

アルバム『KIND OF LOVE』

虹の彼方へ

いかにも初期のミスチルという感じの曲。全体的にChildren's Worldと雰囲気が似てる。有り余るエネルギーをどこに発散すればいいのかわからない思春期の子供たちの歌という感じ。この曲は2002年の7月に桜井和寿脳梗塞で倒れ、おじゃんになってしまったツアーの振替として行われた一夜限りの伝説のライブ 『TOUR 2002 DEAR WONDERFUL WORLD IT'S A WONDERFUL WORLD ON DEC 21』 のアンコール一曲目にて桜井さんの弾き語りが披露された。この曲をやると言った時ギターの田原さんは驚き、本当にやるのかと念押しをしたそうだが、桜井がどうしてもやりたいというので、セットリストに組み込まれることとなったそう。昨年の「ホールツアー虹」の本編最後にも演奏された。おそらく桜井としても思い入れが強い一曲なのだと思う。

Distance

イントロのざらついたギターが心地よく響く。喪失感溢れるハイウェイドライブを描いた歌詞。いかにも昔っぽい曲調と歌詞。トランペットソロの感じとかもなんとなく平成初期な感じがする。だからこそ今聴くと逆にすごく新鮮。サビで盛り上げるのではなく低調なメロディーが低空飛行していく感じがいい意味でミスチルっぽくない。Cメロに関してはかなりミスチルっぽい展開となっている。

車の中でかくれてキスをしよう

初期のミスチルの代表曲と言ってもいいクオリティーの曲なのだが、ベスト盤などには収録していないため、ミスチルの隠れた名曲として語られることが多い。ミスチルファンの友達などに好きな曲を聞かれ、この曲を挙げると「おっ」という反応をされると思う。歌詞の内容は思春期の子供から大人になっていく男性の視点から書かれている。夜のセンチメンタルな感覚と青春の情景が繊細に描かれている。

アルバム『versus』

Another Mind

アルバム「versus」に収録されている一曲。前作「KIND OF LOVE」ではAll by myselfやDistanceなどで若干のダーク路線を模索していたように感じるが、その試みが形になったのがこの一曲だと思う。初期のミスチルはかわいらしい青春っぽい曲が多いのだが、この曲はその中では珍しくダークでカッコいい系の曲なのである。このアルバムにおいては「蜃気楼」も曲調は違うのだが、同じような世界観の方向性を目指しているように感じる。

マーマレードキッス

ミスチルっぽさが全くないこの一曲。最近では映像化されなかったan imitation blood orangeのドームツアーにて演奏された程度でライブでは超レア曲。「versus」に収録されている曲なのだが、このアルバムは前作に比べてかなり色々と実験的なことをしているように感じる。まさに「ミスチル現象」前夜とも受け取れるこのアルバムは桜井和寿の試行錯誤がよく感じられる。

さよならは夢の中へ

こちらは少し重ためのバラード。失恋間際にいるカップルの歌である。長い夜が明け、二人の恋愛も再び前を向いて歩きだそうという歌詞なんだと思う。個人的には二番のAメロ後に来るギターソロがすごく好き。

アルバム『Atomic Heart』

クラスメイト

この曲もミスチルファンの間ではかなり人気の高い「隠れた名曲」。同窓会か何かで再開した昔のクラスメイトと交際を始めた男の気持ちを歌った可愛らしい歌詞。演奏や使っている楽器がすごくゴージャス。ベースもかなり動くし、シンセや管楽器やギターで装飾が付け加えられており、聞いていてなんとなく音楽的に高尚な気分になる笑 近年ではホールツアー虹で披露され、ファンを喜ばせた。

ジェラシー

アルバム「Atomic Heart」は桜井和寿に子どもが生まれ、その時に感じた世界を描いたアルバムという側面が強い。そのようなバックグラウンドを考えた上でもこの曲はかなり異質。ドキュメンタリー映画ESでも語られているが子どもが生まれたことによって純粋な幸福感だけでなく、遺伝子や生命の神秘を感じた桜井の完成がそのまま曲だと思う。ギターの不気味な感じやエロティックな歌詞、独特なメロディーなどは桜井和寿の変態性を垣間見せてくれる。

アルバム『深海』

シーラカンス

ミスチルのアルバムの中でも最も賛否が分かれ問題作と言われたアルバム「深海」のリードチューン。サウンド面において「深海」では前作の「Atomic Heart」とは打って変わって装飾のない曲が多い。シーラカンスもそんな深海を象徴させるような、音の骨組みだけが露骨に表れた一曲だ。アルバムの導入として「深海」の世界観にぐっと引き込まれる一曲。「シーラカンス」は昨年の京都音楽博覧会くるり桜井和寿で演奏された。

アレンジで装飾を施していない曲が多い「深海」流れの中で最もインパクトの強い曲と言っても過言ではない一曲。一個前の「ゆりかごのある丘から」の物悲しく、静かな雰囲気をガラッと変える強烈なイントロ。そして過激な歌詞。かっこよすぎる。最後のゴスペルのクオリティーも圧巻。

深海

「深海」というアルバムの最後の一曲。100万枚売れるバンドになるという夢を叶えてしまったMr.Children。彼らがそこで見た世界は空虚なものだったのだろう。「ミスチル現象」に代表されるシングル曲をすべて封印したこのアルバムは商業主義とは真逆に進んだMr.Childrenの社会への抵抗であったのだと思う。歌詞にもあるように、このアルバムは大衆の心に向けてメッセージを送るのではなく、桜井和寿の心の海の中に深く深く潜っ行ったアルバムなのだ。そしてアルバムのキーワードでもあるシーラカンスは恐らく「ミスチル現象」が起こる前の純粋に夢を追うバンドの衝動のメタファーなのだろう。そのシーラカンスの向かう先が進化なのか退化どちらともとれる歌詞になっている。そしてここから数年間のミスチルは商業主義と相反するダークサイドに落ちていくのであった。

アルバム『BOLERO』

タイムマシーンに乗って

桜井和寿が本気で音楽を辞めようか悩んでいた時代のアルバム「BOLERO」の3曲目に収録された一曲。何をしても爆発的に売れ、世間からアイドル扱いされることに違和感を感じていたMr.Children。「こんな暴走的なロックをやってもまだ世間は俺たちをおだてるの?」とでもいうような挑発的な曲。

Brandnew my lover

この曲もある意味世間への挑発的な一曲。爽やかな青春ソングを歌っていた初期とは打って変わって、「ファックする豚だ」なんて言うようになってしまった桜井和寿笑。それだけ刺激的な曲を作らないと自分自身の存在が世間の波に飲まれてしまうような不安があったのだろう。とにかくギターの主張が強くかっこいい曲。

傘の下の君に告ぐ

こちらもいわゆる鬱曲。「一般市民よ 平凡な大衆よ さぁコマーシャルによって踊ってくれ」だとか「あっぱれヒットパレード」なんてまさに当時のミスチルの感情を歌っているようだ。メディアに踊らされる物好き達に対して痛烈な批判の歌なんだろう。今の桜井和寿であれば間違いなく書かないであろう歌詞。

幸せのカテゴリー

この曲はいわゆる隠れた名曲というやつだろう。「BOLERO」の中では唯一穏やかな一曲と言ってもいいだろう。歌詞は虚しさ漂う倦怠期のカップルの別れを描いている。なんだか当時のミスチルの文脈から考えるとまた別の聞こえ方がする。初期の初期から応援してくれていたファンに対して、「変わってしまった俺らをもう愛すことなんてできないだろう?」みたいな歌詞に聞こえなくもない。あくまで一つの解釈に過ぎないのだが「日の当たる場所に続く道 違う誰かと歩き出せばいいさ」という歌詞と当時のミスチルを重ねるとそのように聞こえてしまわなくもない。こんなことを言うとファンの方々からは怒られるかもしれないがw

アルバム『DISCOVERY』

DISCOVERY

アルバム「DISCOVERY」の一曲目。1997年の「BOLERO」発売後活動休止を経て、ミスチル復活という意味合いもあったのがアルバム「DISCOVERY」。イントロのギターのリフはもはや貫禄さえ感じさせる。このアルバムはとにかくやりたいことを全部やろうということで作られたそうだ。アルバム内の曲のラインナップも多彩である。

Simple

ある意味悩み疲れてある意味一つの悟りを開いたというか、深海の出口のようなものを探しているミスチルにとって一つの正解を見つけたような歌である。色々思い悩んだけど、自分の近くにいる人だけでも幸せに出来ればいいやという曲なのだろう。この曲と「ラララ」は後のミスチルの等身大を歌うというスタイルの先駆けとなっているのではないだろうか。

#2601

Simpleのような穏やかな曲もあると思えば、こんな激しいロックもあるというのがアルバム「DISCOVERY」の特徴。ロックな曲で暗黒期のミスチルを象徴する一曲の一つ。若いころの桜井和寿は恐らく曲を創るのに苦しみながらも何かを創ることで自分が救われていた部分があったのだと思う。彼にとって唯一の救済措置が音楽だったのだろう。桜井は1997年に不倫がメディアに報道され、プライベート面でも苦しんでいたのがBOLERO, DIACOVERYの時代だった。

アルバム『Q』

CENTRE OF UNIVERSE

アルバム「Q]の一曲目。前作「DISCOVERY」以上に遊び心溢れるアルバム。曲のテンポをダーツで決めたり、一曲の中で曲調ががらっと変わったり、実験的な曲が多数ある。「すべては僕の捉え方次第だ」という歌詞は桜井が深海に沈む中で見つけた一つの答えだったのだろう。「あぁ世界は素晴らしい」という歌詞も彼の心境が暗黒期から脱却に近づいているように感じさせる。

スロースターター

かっこよすぎる。テンポは速くないのだがギターのリフがめちゃくちゃカッコよく、闘争心むき出しの曲。今までもその後も、こういう曲はミスチルにはない気がする。

つよがり

「口笛」と並んで「Q]を象徴するようなバラード。後の「しるし」や「sign」や「365日」などのバラードの原点はこのアルバムにあるのかもしれない。ピアノサウンドが強すぎてロック色が消えたと批判が強かったいわゆる「コバタケ最強時代」の原点は意外とこの辺にあるのかもしれない。

十二月のセントラルパークブルース

いやぁこの曲は大好きです。「Q」を象徴する曲の一つだと思う。

友とコーヒーと嘘と胃袋

この曲もとことん遊び尽くしている曲。遊び心がある中でも、辛いことも楽しいことも全部飲み込んで筋肉に変えて強くなろうっていうメッセージが込められてる。途中で桜井和寿の落語が入る。「思いついたアイディア全部やろう!」というこのアルバムのコンセプトに沿った曲となっている。

ロードムービー

この曲もミスチルファンの中で強い指示を集める隠れた名曲。桜井和寿は感情の微分の天才だと思っているのだが、この曲にはそんな彼の才能が存分に活かされている。この曲では感情を直接的に表す表現がない。情景描写だけなのだが、主人公の感情がすごく伝わってくる。
 
街灯が2秒後の未来を照らし オートバイが走る
等間隔で置かれた 闇を超える快楽に 
また少しスピードを上げて
もう一つ次の未来へ
うん。天才だ。

Hallelujah 

アルバム「Q」の最後から二番目の曲にしてこのアルバムの鍵となる曲。このアルバムのジャケットはミスチルの歴代のアルバムの中でも有名だ。潜水士がコーヒーカップを持ち正面のを見ている絵。これは深海からの脱出を意味している。つまり暗黒期の終わりだ。そんなMr. Childrenの次の次元への進化を思わせるのがこの曲。マイナスからプラスへと座標軸を渡るという表現に彼らの決意が感じられる。
 
という事で今回はミスチルのデビュー記念特集として、「EVERYTHING」から「Q」までのアルバム曲を軸にミスチルのデビューから約10年間を振り返ってみました。次回は深海期を終え、次なるステージへと進む『It's a Wonderful World』以降のミスチルを見ていきたいと思います。

「亀田興毅に勝ったら1000万円」に見たYoutuberジョーのセルフプロデュース力の高さ

 
昨日はAbemaTVにて生中継された、「亀田興毅に勝ったら1000万円」という番組が1420万人アクセスを記録し、Abemaのサーバーがダウンしたことがネット上で話題を呼んだ。私は生では見れなかったのだが、AbemaTV公式Youtubeにアップされた二試合はすでに視聴した。2人目の挑戦者であるYoutuberジョーのセルフプロデュース力がすごかった。ジョーブログのジョーに見る今後の社会において必要とされる人材について考えてみる。

惜しくも亀田興毅に敗れたジョー。しかしチャンネル登録者数数は約8万人増える

試合では善戦を見せ、その親しみやすいキャラクターからロンブーの田村淳氏やZebra氏にチャンネル登録をされるなど、一夜にして彼は視聴者1420万人に名を知らしめた。戦いから二日後の5月9日現在、試合前の51万人からチャンネル登録者数が8万人増えて59万人以上にまで伸びている。チャンネル登録者数の価値は小さいとは言えこれだけ多くの人に認知されたというのは大きいだろう。

ジョーに見るこれからの社会の生き抜き方

これまでジョーのようなフォロワー数や影響力を獲得するには、発信側の枠の小さなマスメディアに取り上げられる必要があった。しかしYoutubeやその他の媒体が普及した昨今、マスメディアに取り上げられずとも影響力を持つことが可能となった。そして今回の亀田興毅の企画に名乗りを上げ一躍その名を1000万人以上にとどろかせることに成功したジョー
 
彼の凄いところは命知らずのバカな所とコンテンツの制作能力だと思う。
 

いい意味でバカ

堀江貴文氏もよく言っていることなのだが、成功するのはバカか天才だけだそうだ。そして中途半端に先のことを考えて行動を躊躇する小利口が一番成功しないということを著書などで語っている。私もその意見には大方賛成だ。モチベーションさえあればバカでも協力者が表れる。ジョーは恐らくバカであるがモチベーションが半端ないタイプだ。彼の動画を見ていると彼は一人でコンテンツ作成をしているのではなく恐らくカメラマンや企画を人がついているのではないだろうか。これらのことからもモチベーションのある人物には人や金が集まってくるという事実がよくわかる。

コンテンツ製作能力の高さ

ジョー自身というよりは、彼とその周りにいるメンバー(?)のコンテンツ制作能力は非常に高いと思う。亀田興毅を倒したら1000万の企画に飛びつき、前後で特集動画のようなものを組んでいる。おそらく「亀田興毅に勝ったら1000万円」の番組に出ていた挑戦者の中で、その後の反響をもっとも受けるのはジョーだろう。彼は試合前のトレーニング動画や調印式と番組の舞台裏などをコンテンツとして製作し、それらのコンテンツは恐らくあの番組を見た後に彼のチャンネルを訪問した人にはほぼ確実に見られているらだろう。
先日当ブログでも取り上げさせていただいたヒカキンさんもそうだが実はYoutuberというのは地味な仕事だったりする。ヒカキンの場合コンテンツ制作は彼一人で完結している。
ジョーの場合は彼らを初めとするチームメンバーのコンテンツ力の高さで今後のYoutubeを引っ張っていくようなチャンネルになっていく可能性も十分に考えられると思う。

まとめ

好きなことに突き抜けられる人材が活躍できる時代になりつつある。ブロガーのやぎぺーさんやはあちゅうさん、イケダハヤトさんなどもともとは文章の執筆の素人であった人材が一流のブロガーとしてネットの力で成り上がることができる時代。素人の撮影した写真がプロによる写真より高く売れるような時代に僕らは生きている。ジョーの場合恐らくこれまでの時代であれば有害な青年として扱われてきたような人材だった。しかし過激で勝つ極端な彼の作るコンテンツはヒットの可能性を十分に秘めている。これらのプロを超える素人は恐らく現在の義務教育のシステムからは中々出てこない。彼のようにチャンスがあれば飛びつくような人材をいかに増やしていけるかが今後の社会をより面白くするためキーになってくることは間違いないだろう。

Mr. Childrenへの想い

25周年を迎えるMr. Children

こんにちは。ナサケモノです。今日はミスチルはについて書いてみたいと思います。
5月10日を持って25周年を迎えるMr.Children
7日の夜8時からAbema TVでもミスチル特集をやるそうだ。そこでミスチルの25周年に乗っかって、当ブログでもMr. Children特集ということでいくつかの記事を書いてみたい。第一回は僕のミスチルに対する想いということで勝手に熱く語らせていただきます。
僕が最もミスチルにはまっていたのは高校1年生から3年生の間だった。今でももちろんミスチルは大好きなバンドであるが、当時の私のミスチルへのハマりようは異様だったと思う。

病気のようにミスチルを愛してたあの頃

ミスチルに最もハマっていた高校時代、僕は中国に住んでいた。中国ではYouTubeの視聴が禁じられているのでYoukuという中国版YouTubeにあるミスチルの動画を猿のように漁っていた。時々日本に帰るとミスチルのCDやDVDを買い漁った。そしてそのDVDを毎食ご飯を食べるときに見ていた。今考えると家族にはすごく迷惑を掛けた気がする。この場を借りて謝罪したい笑

ナサケモノのミスチルにまつわる黒歴史3選

1.服選びの基準は桜井さんっぽいかどうかだった

 

恐らく多くの男子高校生が陥ったことのあるこの現象。好きなアーティストや俳優の服装を真似てしまう年頃。スピッツの「醒めない」の中で「カリスマの服真似た 忘れてしまいたい青い日々」という一節があるが、まさにそれである。今思い出しても枕に顔を埋めて足をバタバタさせたくなる笑

2.学校でミスチルについてプレゼンした

僕のいたインターナショナルスクールでは年に一度Language Festivalというイベントがあった。英語、第二言語、母国語の三つのセクションでそれぞれ何かしらの発表をするというイベントだった。日本語の部門で僕はミスチルのとこをプレゼンした。特にミスチルに興味のない人たちに向けてミスチルのアルバムを紹介したり、解説した。しまいには当時の新曲の「REM」を紹介きてしまったり。いわゆる公開オナニーである。

3.学年全体に向け「and I love you」を弾き語り

インター時代、二年生になると音楽か美術か演劇の授業を選ぶことができた。そこで僕は音楽を選び、授業内でソロパフォーマンスというイベントがあった。各自好きな楽器を選び一人ずつパフォーマンスをしていくというイベントだった。他の人たちはピアノやギターソロ、ドラムによるパフォーマンスをしている中、ギターソロなんて絶対できない僕はなんとミスチルの曲の弾き語りをしてしまったのである。授業内で「and I love you」の弾き語りをすると先生がなぜか気に入ってくれて今度は学年全体の前でパフォーマンスをしてみなということになってしまった。100人ほどの外人の前でミスチルの「and I love you」を熱唱してしまったのである。その中には僕が当時好きだった日本人の女の子もいた中で超絶ラブバラードを熱唱してしまった。ちなみにその後その女の子に告白したが敢え無く振られてしまった笑

僕にいろいろな世界を見せてくれたミスチル

ミスチルの音楽を聴くと当時見ていた世界や感じていた匂いを思い出す。しかしその一方で今の新鮮な気持ちで音楽が聞こえてくることもある。
 
僕の好きなアーティストはほとんどミスチルから派生している。とある雑誌でYouthful Daysのサビがスピッツのとある曲にに過ぎていたためメロディを変えたという話をしていて、その曲がスピッツの8823なんじゃないかという噂をネットで見かけ、実際に聴いてみたところ大ファンになってしまった。ミスチルと一昨年対バンしたくるりのことは今でも最も好きなバンドの一つだ。Bank Bandの影響でフジファブリックの存在を教えてもらったりした。
 
僕の音楽の趣向の原点にはいつもミスチルがいてくれるような気がしている。
 
新譜が出るたびにいい意味で期待を裏切ってくれるMr. Children。デビューして25年経ってもなお進化し続けるミスチル。これからも僕らをワクワクドキドキさせて下さい。25周年本当におめでとうございます!
 
 
次回はベスト盤に入っていないミスチルの名曲という記事を書いてみたいと思います!

 

 

ハンガリーとスロバキアの国境沿いにある田舎町コマロムへ!【春の欧州旅行記12日目】

昼過ぎにブダペストを出発し友人の実家があるコマロムへ。私の友人の友人も何人かブダペストに住んでいるのだが、みんな大体週末は実家に帰るらしい。移動時間で言うと大体1時間半くらい日本で言えば、東京の都心に住みながら週末は群馬や栃木あたりに帰るような感覚だろうか。日本人だったらわざわざ毎週帰りはしないだろうなと思うけど家族の距離感みたいなところが若干違うのかもしれない。

電車でコマロムへ!

ブダペスト東駅で菓子パンのようなものを購入。友人におすすめされて買ったが甘すぎてあまり好きにはなれなかった笑 電車に乗りいざコマロムへ!

 

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駅に着くと友人の叔母が車で迎えに来てくれていた。駅から家は近く、車で5分~10分くらい。到着し、3年ぶりに来た友人の家。祖父母もお元気でハンガリーの家庭料理を御馳走してくれた!今日一日まともなご飯を食べていなかったのでおいしい!

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 一家のプライベート農園へ

その後友人の父母が帰宅。お父さんが一家の畑を見せてやるということで、家から10キロほど離れた畑へ。冬の時期であったこともあり、作物はなかったが植えてある種などの説明を嬉しそうにしてくれた笑 そして自家製の葡萄からできたワインも飲ませてくれたり、自家製のパリンカ(ハンガリーのウォッカ)を飲ませてくれたりした。

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 歴代の王様の別荘地タタ

そのままさらに車で2~30分離れた場所にあるタタという場所に向かった。タタは元々ブダペストにいた王様の別荘地があった場所だ。大きな湖がありその横にはお城がある。お城の半分は戦争でやられてしまったそうだ。ハンガリーの歴史についてもお父さんが熱く語ってくれた笑 友人のお父さんは典型的なヨーロッパのナショナリズム精神が強く根付いた田舎のおじさんという感じだ。なんというか自分の周りにはいないタイプの人なのでたまに会うと新鮮。

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 衝撃の地下室!解体された豚が丸々!

家に帰り今度は地下を見せてもらえることに。地下にはヒーターを稼働させるための火がたかれていたり、先月解体した豚の肉が丸々貯蔵されていたりいろいろすごかった。 超の部分を手で切り一口食べてみなと差し出された笑 加工されていないソーセージというものを初めて食べたw

 

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スロバキアへ!

その後自転車でスロバキアに渡り、バーへ。友人の幼馴染の女の子(2個年下)と会う。三年前にあったときはだいぶ幼かったがすごく大人になっていて綺麗だった。その女の子の彼氏とそのバンド仲間と一緒に飲む。こっちの人は本当に初見の人にも優しい。飲みながらいろんなゲームをして盛り上がる。

 

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そして家に帰り昔の写真などを振り返って思い出話をしてから就寝。

 

次回は朝早くブダペストに戻り飛行機に乗ってオランダへ向かいます!